小説


-平穏ってなんだっけ-
* About Story * 平穏ってなんだっけ
ある日、東雲琉夜(しののめ りゅうや)は担任の計らい(陰謀だ! by 琉夜)によって大学へと特級で編入した。
そこは親友の蓮見俊樹(はすみ としき)の兄、直樹(なおき)が通っている大学であり、琉夜自身も特級には異論はなかったが―――。

琉夜を中心に繰り広げられる、青少年達の非日常小説。
* Writer *
琳那
» Genre
BL
» Comment
初めましての方もそうでない方もこんにちは。
BL担当の琳那です。 オリジナルは初めてなんで緊張しますね。 ヘボイ上に更新亀並ですが、楽しんでいただければ幸いです。これとは別に二次創作(こっちもBL)も書いているので、お暇でしたらそちらも宜しくお願い致します。



登場人物

◆東雲 琉夜 (しののめ りゅうや)
17にして大学へと特級。高校での成績は学年首席。
大学では何かと日向に付き纏われる。ひょんな事から俊樹と親友に。

◆蓮見 俊樹 (はすみ としき)
琉夜の高校に転校してきた編入生。成績は中の下。
琉夜と親友で、部の顧問に言い寄られてるがスルー。

◆蓮見 直樹 (はすみ なおき)
俊樹の兄。琉夜と同じ大学に通う。
俊樹が一番大事。でも琉夜も大事。

◆日向 雅人 (ひゅうが まさと)
大学の科学教師。琉夜に言い寄る。鬼畜。

◆森永 誠 (もりなが まこと)
俊樹の部の顧問。俊樹も好きだが琉夜も好き。
マイナスもプラス思考へと変換する性格。


第一章  ―出会い・特級・出会い?―


俺の名は東雲琉夜(しののめ りゅうや)。17だが大学に通ってる。
何故かは唐突に家に届いた封筒を開けたのがきっかけだ。

入っていたのははA4サイズの紙。 そこに綴られていたのは。

――東雲琉夜。貴殿を飛び級として○×大学への入学を許可する。

「............は?」
俺は思わず紙を落とし、それからたっぷり十秒後に間抜けな声を発した。
そして次いで怒りが湧き起こった。
俺はこんな事を望んでいない。
が、こんな事をやるのは一人しかいない。

「っあんの......馬鹿担任がーーーーーーーーーーーーーっ!!」

ぶっちゃけ教え方のなってない(痛)メタボ気味な俺の担任しか。
勿論俺はその後学校に即刻戻ってメタボ担任(あだ名。俺が勝手に決めた)に苦情を出した。
だけど、
「お前は頭がいいし......それに大学の方がもっと知識の幅は広くなると思ったんだ」

なんて返された。
確かに学ぶこと自体は嫌いじゃない。 知識の幅が広まる事だって、実は好ましいことだ。
だがしかし、問題がある。

最近仲良くなった蓮見俊樹(はすみ としき)の事だ。 俺は元来友達と呼べる者がいなかった。
しかし、ひょんなことから友達になった。

その時俺は電車に乗っていた。
電車に揺られ、ぎゅうぎゅうの満員電車に辟易しながらもその状態に甘んじた。 まぁ、そうするしかなかったわけだが。

「ゃ......っ」

何処からかか細い声が聞こえ、俺は辺りを見渡した。
満員とはいえ、身動きが全く取れないというわけではない。 あちこちに視線を向けたが、声が小さすぎて何処から発せられているのかよく判らなかった。

「やめ...て、くださ......!」

はっきりとした声が聞こえ、そちらに視線を定めた。

そこには俺と同い年くらいで、自分と同じ学校の制服を着た男子学生が中年のおっさんにセクハラされていた。 厳密に言えば、おっさんがそいつの尻を撫でながらはぁはぁしていた。
つまり痴漢。

俺はさっと携帯を取り出し、その現場を押さえた。 そして駅に着き、人が一気に外へ流れ出たのをいい事に二人に近づいた。

「おい、あんた何やってんだ」

流れに乗って消えようとしたおっさんの腕を捕まえ、床に転がした。

「な、なんだね君は!私が何をやったと......」
「何って痴漢だろ?男の子相手に」
「何を証拠にそんなことを!」

図星を突かれ詰まったおっさんに先ほど取った写真を見せる。
そうすれば相手は蒼白になった。
俺は嘲笑を浮かべた。

「低能だな。もうちょっと周り、気にした方がいいな、あんた。さっさと失せろよ、この事は黙っててやる」

相手を睨み、低く告げればおっさんは一目散に逃げた。
その先を目で追い、視界から消えたと同時に振り返った。

「ぁ......」
男子学生はぽかんとしながらこちらを見ていた。
俺が自分を視界に収めたことに気づき、気まずそうにお礼を言ってきた。

「そ、その......ありがとう」
「別に。それより、お前も周り気にした方がいいぞ」
「う、うん......気をつける...」

俯いた学生に「全くだ」と返し、俺は空いた椅子に座った。

「お前も座ったら?またあんな目に遭うかもしれないぞ」
「っ!―――そう、だね」

ぎこちなく頷き、俺の隣に腰かけた。
俺は改めてそいつを観察した。
中性的な顔立ちで、穏やかな雰囲気をしたやつだった。

これなら頷けるかも...と思案してると、俺の視線に気づいたそいつは「...何?」と遠慮がちに問うた。

「いや......なんとなく痴漢される理由に行き届いただけ」
「え...!?」

心底驚いたように目を見開き、次いで不信感を滲ませた眼で俺を見てきた。

「安心しろ。俺にそんな趣味ない。俺は女の子の方がいい」
「だ、だよね......ごめん」
「別にいいさ」

俺がそう返すと、そいつはまた黙った。
大人しい奴だな、と思いながら俺は携帯を取り出し、さっきの画像を消した。 すると黙り込んでいたそいつが唐突に訊ねてきた。

「ねぇ...なんで助けてくれたの?」
「なんでって?」
「だって......僕、男に痴漢されたんだよ?」
「だから?」
「いやだからって......」

何と言えばいいか...と思案するそいつに、俺は溜息をついた。

「確かにお前の事は全く知らない。ただ......」
「ただ?」
「――俺も同じ体験してんだよ」

だから、と言えば、そいつは瞠目した。
そして何処か納得したように俺をまじまじと見つめた。

「なんとなく、判るかも」
「......お前俺に喧嘩売ってるか?」
「え、ち、違うよ!だって君、綺麗だし......」

確かに、綺麗だの可愛いだの、クラスのやつからは散々言われてた。
無論、部活内でもだ。
どちらにしろ不快だったが。

「ならお前は可愛いだな」

仕返し、と言わんばかりに言い返した。
するとそいつはむぅ、と詰まり、目を逸らした。

そのまま暫く沈黙が続いた。
目的の駅に着くと、俺は席を立った。
そして何故かあいつも。

「......もしかして、此処で降りるのか?」
「君も?」

そして再び沈黙。
何故か笑いが込み上げてきた。
同じ高校で同じ経験して同じ町に住んでて。

「偶然とは思えんな」
「確かに」

俺が笑うとそいつも笑った。

「ねぇ、君、名前は?」
「ああ...まだ言ってなかったっけ。俺は東雲琉夜」
「僕は蓮見俊樹」
「俊樹、ね。よろしく」
「よろしく。僕も名前で呼んでいい?」
「どうぞ」

それから握手を交わし、家に帰るまで色んな話をした。
話してみると案外話しやすい。
そんな話すタイプには見えないが、人は見かけによらない。

「へぇ...クラス近かったんだな」
「そうみたいだね。あ、僕此処だから」
「此処って......」

見るからに新築な家。
最近此処に引っ越してきた家族が住んでいるらしいが......。

「お前だったのか......」
「うん。僕一応転校生だし。言ってなかったっけ?」
「......初耳だ」

確かクラスの奴が転校生が来ただのなんだの言っていた気がする。
それがこいつだなんて聞いてない。

「家も近かったんだな」
「え、そうなの?」
「俺ん家、此処から100mくらいしか離れてないぞ」
「近っ!」

それからまた笑い合った。
此処まで笑ったのは久しぶりだ。

「もう此処まできたし、いっそ一緒に学校行くか?」
「あ、いいね!」


まぁそんな訳で俺は俊樹と友人になり、今では親友にまで発展したのだが。



家に着き、部屋に入った瞬間俺はベッドにダイブした。

「俊樹......なんて言うかな」

きっと寂しそうな顔すんだろうな。
意外と涙脆いし。

「畜生...あのメタボめ」

勝手に書類を提出した挙句本人に了承さえ取らない非常識な担任。 心の中で悪態をつき、俺はそのまま眠りに就いた。




まぁそんなこんなで特級して今は大学生な日々を送っている。
特級の事を話したら案の定俊樹は涙目になった。 いや可愛いけどさ。本当に泣かれたら兄貴の方がうるさい。


兄貴ってのは俊樹の兄貴で、名前は直樹。 俊樹と友達になってからしばしば会う事があった。 そんな事もあって直樹の方とも仲良くやってる。 最近はもっと仲良くなった。
なんでかって?俺の通わされた大学に直樹がいたからだ。 元々知り合いって事で色々大学の方で世話になってる。 弟がいるだけあって面倒見がいい。

俺は直樹の事を本当の兄みたいに慕ってるし、直樹も俺を弟のように思ってくれてる。 以前俊樹が「プチ家族みたい」と言っていたのがよく判った。 まぁ直樹もいるし、知識の幅も広まっているしそれなりに大学生活は満喫している。


ただ、新たな問題が発覚した。
大学の科学教師、日向雅人(ひゅうが まさと)だ。
奴は何かと付けて俺に付き纏う。
最近なんかセクハラ紛いの事をされた。


何って、抱きしめたり尻撫でてきたりキスしようとしたり.........って、これじゃ完全なセクハラか。


俺とあいつは10も違う。
全くもって犯罪だ。
それ以前に俺は男だ!と言いたいが...電車で痴漢にあったことあるしなぁ......。


「――何を百面相している」

......出たよ。
いっつも神出鬼没で初めこそ驚いたものの今ではすっかり慣れた。 あいつは俺が驚く所が見たいんだと。このSが!
そうそうお前の思い通りになって堪るかと必死で慣れた。
うん。よく頑張った俺。

今俺は大学内にある図書室にいる。
読書中に回想していた俺は仕方なしにそちらを向く。 こいつは科学の担当だし、資料を取りに来たというのは判る。
実際何冊か本を持ってる。
それはいい。

「......何の用ですか?」

どうしてかこいつは俺に構う。
なんとなく想像はつくが、認めたくない。

「お前が一人で面白い事になっていたからな、呼んでみただけだ」
「そーですか」

俺は適当にあしらい、本に目を落とした。
すると何を思ったのか知らないが、日向は耳元に唇を寄せて囁いた。

「――その態度は関心せんな」
「っ......」

言葉と共に吐息が吹きかけられ、俺は肩を竦めた。
それが気に入ったのか、やつは何度も同じ手を使う。
これも最早日常の一コマだ。
だけど今日は違った。


「ひ......っ」

ぬるりとした感触に喉が引き攣った。
あろうことか日向は俺の耳の輪郭を舐めていた。

「っ...や、め......んっ」

図書室には誰もいない。
それをいい事に日向は何度も舐め上げる。
そのなんとも言えぬ感触に肩を震わせ、俺は硬く目を閉じた。
その時、廊下から話し声が聞こえ、俺はびくりと躰を跳ねさせた。
日向は扉を一瞥し、足音がこちらに向かっているのを察して俺から離れた。
俺はほっと息をつき、躰の力を抜いた。
が、すぐに躰を強張らせた。

「今日はここまで......だな」

キッと日向を睨むと、やつはにやりと笑い、話し声の主達が入ってくると同時に出て行った。

「......あんの変態が...っ」

今すぐにでも机を思いっきり叩きたかったが、図書室であるのでやめておいた。
その代り思いっきり不機嫌顔でいた。 当然不機嫌オーラを察し、誰も話しかけてこなかった。




誰か俺に平穏をください。



To be continued......


第二章  ―やって来たのはハイテンション―


「琉夜…最近元気ないね。どうしたの?」

学校帰りで一緒になった俊樹と家までの道のりを歩いていた時の事だった。
俊樹の問いに琉夜はがっくりと項垂れた。

「どうもこうもないさ…。ちょっとどこぞの変態教師が俺に纏わりついてくるんだよ」
「うわー……」

変態教師とは勿論雅人の事だ。
琉夜のいつにない疲れた様子に俊樹はお疲れ様と苦笑と共に労りの言葉を投げかけた。
それを嬉しく思いつつ、琉夜は溜息をついた。

「俺が一人の時なんかすぐセクハラしてくるし、周りに誰かいても隙をついてくるんだよなぁ」

嗚呼、思い出したら腹が立ってきた。
そんな琉夜の雰囲気を悟ったのか、俊樹は話題を変えた。

「あ、そう言えば僕の部の顧問が変わったんだ」
「へぇ…あの婆ちゃん、とうとう退職か?」
「まぁそんなとこ。今度は若い男の先生だよ」
「ふーん。いい先生か?」
「いい、と言えばいいんだけど……」

急に声のトーンを落とした俊樹に、琉夜は訝しげに視線を投げかけた。
俊樹は思い出すようにとつとつと語りだした。





「え?退職?」
「そうなのよー。だから新しい先生がくるんだって!」

俊樹が部活のためにと部室に入った時の事、その話が振られた。
俊樹が所属している部の顧問は相当な年のお婆さんだった。
近々退職するらしいと言う噂もあり、その噂が現実のものとなったのだ。

「どんな先生?」
「それが私にもよく判んないのよ」

同じ部の加賀千尋(かが ちひろ)は苦笑した。
彼女は俊樹のクラスメイトでもあり、部活仲間でもある。
そして俊樹は彼女に気があるらしい。

「はぁーい皆の衆!全員注ー目っ!」

いきなりハイテンションな声がかかり、部室内にいた部員は全員肩を揺らした。 そして勢いよく開かれた扉から、一人の男が入ってきた。

「今日からこの部の顧問になる森永誠(もりなが まこと)だ。よろしく!」

あまりのテンションの高さに一同は茫然とした。
それに気付いた誠は一瞬停止し、次の瞬間にっこりと笑った。

「いやーごめんごめん。僕いっつもこんな感じのテンションだから、みんなついてこれないよね☆」

あ、ウザい。
みんなの心が一つにまとまった瞬間だったと言う。

「しかし大丈夫!僕と過ごしていればすぐに慣れるよ!!ところで君、可愛いね」
「へ?」

ハイテンションなまま指を差された先には俊樹。
一瞬千尋かと思ったが、やはり指先は自分。

「あの…」
「うむ。君が男の子だと言う事は十分理解している」

戸惑いを隠せない俊樹に誠は手を上げた。
誠の言葉に少し安堵したが、続く言葉に完全に固まった。
因みに彼を除く全員だ。

「だがしかし安心したまえ!僕は両刀だからね!!」

ど こ が 安 心 だ ! ! 
全員で突っ込んだが、彼には届かなかった。




「―――ってな事があったんだ」
「そ…それはまた……」

仮にも教師がそれでは駄目だろう、と突っ込みたかったが、話を聞く限り突っ込みはスルーされそうなのでやめておいた。
雅人とどっちがマシだろうか、とも思ったが、正直どっちも嫌だ。

「琉夜……僕らって運、ないのかな」
「ない、かもな」

しばらく二人は乾いた笑みを浮かべた。



翌日、琉夜は大学の講義が早く終わり、俊樹の話に出てきた教師を見てやろうと思い高校へと足を運んだ。

「失礼しまーす」

今は授業中で、教師はほとんどいない。
それでも少なからずいるので、取りあえず挨拶はしておいた。
琉夜に気付いた一人の教師が驚愕の後に頬を緩ませた。

「ん?ああ、東雲か。久しぶりだな」
「お久しぶりです」
「どうだ、大学の方は?うまくやってるか?」
「はい。知り合いもいたので、なんとか」

変態教師については黙っていよう。
てゆーかセクハラ受けてます、なんて言えない。つか言いたくない。

「そう言えば、新任の教師が来たって蓮見に聞いたのですが」
「ああ、そうなんだ。ちょっと待ってなさい」

そう言うなり、教師は何処かへ行ってしまった。 琉夜は久しぶりの高校の教務室に懐古の思いを抱いていた。
しばらくすると、教師が一人男性を連れ添って戻ってきた。

「東雲、紹介しよう。こちらが新しく就任なされた、森永誠先生だ」
「あ、どうも初めまして、東雲琉夜と申します」

緩くお辞儀をすると、誠はキラキラと目を輝かせた。
黙ったままの誠に、教師も琉夜も不審に思い彼を見た。
そしてその目と出会い、二人とも固まった。
誠はそんな二人に構わず、素早く琉夜の両手を包み込んだ。

「君、美人だね」
「……は?」

真剣に呟かれ、琉夜は昨日の俊樹の話を思い出した。
もしかして、と嫌な汗が背筋を伝い、琉夜は内心冷や汗をかいた。
そしてそれは見事的中した。

「うん、気に入った!君も僕の愛人の仲間入りだ☆」
「断固拒否します!」

反射的に返し、琉夜は己の反射能力を称賛した。
琉夜の答えに誠は頬を膨らませた。
小 学 生 か !

「むぅー!なんでさ!!」
「なんでもかんでも嫌に決まってるでしょう!」
「えぇー?君なら蓮見君に並ぶ美形なのにぃ」
「俊樹を餌にしないでください!ってか愛人にしたんですか!?」
「うん」

聞き捨てならない単語を耳にし、琉夜は誠に詰め寄った。
誠はあっさりと吐き、琉夜は唖然とした。
横にいた教師も然り。
そんな中チャイムが鳴り、我に返った琉夜は誠を振り切って教務室を出た。
一直線に俊樹のクラスを目指し、開いている扉から彼を呼んだ。

「俊樹!」
「え?琉夜っ!?なんで此処にいるのさ!?」
「んな事はどうでもいい!お前、あの新任教師の愛人入りしたって本当か!?」
「は!?んなわけないでしょ!何情報だよ!?」
「だ、だよな。あー良かった、うん、すっきりした。って事で帰る」

問題解決、といっそ清々しいまでの引き際に、教室中が茫然とした。
廊下にいた生徒や教師も然りだ。
帰ろうと踵を返した琉夜を俊樹が慌てて止めた。

「ちょ、ちょっと待った!なんで琉夜が此処にいるの?ってか何しに来たの?つーかホントに何処情報!?」
「なんでって…講義が早く終わったから新任教師を見てやろうかなーって思って来たものの本人は不在。 だけど某教師が新任教師を連れて来てくれたからとりあえず挨拶はしたけど何故が目が輝いてて、愛人にと勧誘された。 それを蹴ったはいいものの俊樹を餌に再び勧誘され、俊樹も愛人にしたのかと詰め寄った所を肯定された」

だから確かめに来た、と締め括った琉夜に、俊樹は溜息をついた。
周囲は「ああ…」と琉夜の説明めいた台詞を聞き納得した。
琉夜が大学に特級した事は学園中が知っているので誰も咎めなかった。
寧ろ愛人に勧誘された事に同情した。


「琉夜、あの先生の話は無視していいから」
「判った。とりあえず帰っていいか?」
「どうぞ。あ、森永先生に会ったら殴っといて。蹴りでもいいけど」
「はいはい。じゃあな」

今度こそ教室を出て行った琉夜に、全員が手を振っておいた。
琉夜が姿を消すと同時に、皆が合掌した。哀れ、森永。
しばらくすると何処かで絶叫が上がった。
嗚呼、やられたな。

「みんな、今のは無かった事にしてね」

にっこりと微笑んだ俊樹は確かに可愛いのだが、後ろから見える黒いオーラに恐怖を抱いた。
忘れよう、全力で。






「ねぇ俊樹。琉夜君って力強いの?」
「普段は人並だけど怒ると破壊魔並だよ」
「ふーん。じゃあ昨日森永先生がよろけてたのって、やっぱ琉夜君作?」
「それプラス僕。会う度に蹴り入れたから♪」
「………そう」

ハイテンションな誠の高校教師生活は前途多難のようだった。



「琉夜」
「ん?何だ、直樹?」
「昨日俊樹が妙に生き生きしてたんだが…なんか知らないか?」
「あー……」
「それとお前にありがとうって伝えてくれって言われたんだけど」
「……どういたしましてって言っておいて。それと俊樹だけど、ただストレス発散しただけだよ」
「そうか……判った」

俊樹、お前森永に何したんだ。
何となく腑に落ちない顔で抗議場所に向かう直樹の背を見送りながら、琉夜はそう思った。






本当に平穏って続かない。





To be continued.....